少子高齢化という大きな課題に直面する日本。
社会保障や子育て支援に必要な費用は年々増え続けています。
これまでの財源確保の方法といえば、「増税」か「国債(国の借金)」が主な選択肢でした。
しかし、国民の負担をこれ以上増やさずに、未来のための安定した財源を生み出すことはできないのでしょうか。
こうした問題意識から、「政府系ファンド(SWF)」という新しい財源確保の方法が提案されています。
この記事では、未来の日本を支えるかもしれないこの「新しい財布」の仕組みと可能性について、分かりやすく解説します。
1. そもそも「政府系ファンド(SWF)」ってなんだろう?

まずは、政府系ファンド(SWF:Sovereign Wealth Fund)という言葉の基本的な意味から見ていきましょう。
SWFの定義
SWFとは、一言でいえば「国が持つお金(資産)を世界中の株式や不動産などに投資して、長期的に増やしていくための特別な組織」です。
国家の「貯金箱」にあるお金をただ貯めておくだけでなく、そのお金自身に「働いてもらって増やす」仕組みと考えると分かりやすいでしょう。
資金の源泉
SWFの元手となる資金は、大きく分けて2つのタイプがあります。
- 資源国型:
ノルウェーや中東の国々のように、石油や天然ガスといった天然資源を輸出して得た莫大な利益を資金源とするタイプです。
- 非資源国型:
シンガポールや中国のように、貿易黒字などによって国に貯まった外貨準備(外国のお金)を資金源とするタイプです。
目的
SWFが目指す主な目的は、以下の3つに整理できます。
- 国の財政を安定させる:
資源価格の変動や経済危機といった不測の事態に備え、財政の安定化を図ります。
- 将来の世代のためにお金を残す:
今ある富を未来の世代のために引き継ぎ、年金や社会保障を支える財源とします。
- 国の成長に必要な分野に投資する:
国内のインフラ整備や、AI・半体といった先端技術の開発など、国の未来の成長に不可欠な分野へ戦略的に資金を供給します。
2. 世界の成功例を見てみよう!どんな風に使われているの?

言葉だけではイメージしにくいかもしれません。
ここでは、世界で活躍する代表的な3つのSWFを紹介します。
それぞれが異なる個性と戦略を持っているのが特徴です。
ノルウェー政府年金基金グローバル(GPFG)
北海油田の石油収入を元手にし、資産規模は約1.8兆ドルを超える世界最大のファンドです。
GPFGの最大の特徴は、その「徹底した透明性」にあります。
投資している全企業のリストを公開するだけでなく、「ユニバーサル・オーナー(万物の所有者)」としてその巨大な規模と信頼性を活かし、投資先企業の経営に積極的に関与します。
その安定した方針から、IPO(新規株式公開)や大規模な株式売却の際には「自然な受け皿」として市場の安定に貢献する、世界中の機関投資家から「お手本」と見なされる存在です。
シンガポール政府投資公社(GIC)
外貨準備を元手とするGICは、20年という超長期的な視点で、インフレ(物価上昇)によって国の資産価値が実質的に目減りするのを防ぎ、国の「購買力」を守ることを最優先します。
その真価は、資産の流動性、時間、そして分散を「持久力」に変える独自の運用体制にあります。
短期的な利益を追わず、規律あるリスク管理を徹底することで、市場が荒れる局面でこそ力を発揮する、まさに「リザーブマネージャー(準備金の管理人)」の達人です。
サウジアラビア公共投資基金(PIF)
資産規模約1.15兆ドルを誇るPIFは、石油依存経済からの脱却を目指す国家戦略「ビジョン2030」の実行部隊です。
その強みは、未来都市「NEOM」のような巨大プロジェクトでゼロから資産を創造する「グリーンフィールド・リスク」を積極的に引き受け、他国には真似のできない投資機会を自ら創出する点にあります。
世界のハイテク企業にも大胆に投資し、国そのものを未来に向けて作り変えていく「ネーションビルダー(国家建設者)」です。
3. なぜ今、日本で「政府系ファンド」が必要なの?
海外の成功例を見てきましたが、なぜ今、日本でSWFの創設が議論されているのでしょうか。
その背景には、日本が直面する待ったなしの課題があります。
日本の課題と財源のジレンマ
最大の課題は、深刻な少子化です。
幼児教育の無償化や児童手当の拡充といった子育て支援策には、試算で年間6兆円以上もの安定した財源が必要です。
しかし、これを「増税」や「さらなる国債発行(借金)」で賄えば、国民生活や将来世代への負担が重くのしかかります。
日本が抱える「隠れSWF」というリスク
しかし、実は専門家からは、日本はすでに意図しない形で「高リスクの隠れSWF」を運営している、という厳しい指摘がなされています。
これは、日本の政府全体のバランスシートが「低金利の円建て負債(国債など)」で資金を調達し、「高リスクの外貨建て資産(外貨準備やGPIFの株式投資など)」を保有する構造になっているためです。
この仕組みは、金利上昇や急激な円高といった市場の変動に対して非常に脆弱であり、国民が気づかないうちに大きなリスクを抱えている状態なのです。
新しい選択肢から「財政の正常化」へ
こうした状況を踏まえ、公明党などが提案しているのが「眠っている国の資産を運用して新たな財源を生み出す」という日本版SWF(通称:ジャパン・ファンド)構想です。
これは、ゼロから何かを始めるのではなく、すでに存在する「隠れSWF」のリスクをきちんと管理し、その潜在能力を国家のために最大限引き出すための、いわば「財政の正常化」に向けた挑戦なのです。
4. 「ジャパン・ファンド」構想の仕組み
では、「ジャパン・ファンド」は、具体的にどのような仕組みなのでしょうか。
元手はどこから?
構想の主な元手として考えられているのが、日本が保有する「外貨準備」です。
日本の外貨準備高は約1.3兆ドルと世界第2位の規模を誇ります。
しかし、その多くは安全性を最優先して米国の国債などで運用されており、収益性はごくわずかにとどまっているのが現状です。
どうやって運用する?
構想では、この莫大な外貨準備の一部を、より収益性の高い積極的な投資に振り向けます。
運用の実務は、私たちの年金積立金を運用して累積155兆円以上の収益を上げるなど、世界トップクラスの実績を持つ「GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)」のノウハウや仕組みを活用することが検討されています。
専門家からは、ファンドを二階建ての建物のように設計することが提案されています。
一階部分(資産の96%など)は、GPIFのように世界中の資産に分散投資する巨大で安定した土台です。
そして二階部分(残りの4%など)は、日本の未来に不可欠なAIや半導体、脱炭素といった分野に集中投資する、より小規模で戦略的な「ベンチャー部門」のような役割を担います。
生まれた利益の使い道
この運用によって得られた収益は、少子化対策や教育費の支援、そして未来の産業を育てるための投資など、国民生活に直結する重要な政策の財源として活用することを目指しています。
5. 成功のカギは?気をつけなければいけないこと
大きな可能性を秘めたSWFですが、成功させるためには乗り越えるべき課題もあります。
最大のリスクと成功への条件
最も懸念されるのは、「政治的な思惑で資金が使われるリスク」です。
経済的な合理性よりも、特定の地域や業界を救済する目的で非効率な投資が行われれば、国民の大切な資産は増えるどころか無駄遣いになりかねません。
これを避けるためには、絶対に欠かせない2つの条件があります。
- 厳格なガバナンス(統治)
政府からの不当な介入を許さず、高度な専門知識を持つプロフェッショナルが、純粋に経済的な合理性に基づいて投資判断を下せる独立した仕組みを確立することが不可欠です。
- 高い透明性(情報公開)
お手本であるノルウェーのファンドのように、何に、いくら投資し、どれだけの成果が出ているのかを国民に対して詳しく公開し、常に厳しい監視の目にさらされる状態にすることが重要です。
さらに、専門家が指摘する技術的な課題もあります。
ジャパン・ファンドの原資として考えられている外貨準備を管理する「外国為替資金特別会計(外為特会)」の会計構造です。
現状では、運用で生じた含み益は実現していないのに利益として計上できる一方、含み損は計上されずに積み上がっていくという歪んだ仕組みになっています。
また、円建ての短期負債でドル建ての長期資産を保有するという「通貨と期間のダブル・ミスマッチ」も大きなリスクであり、こうした構造的な問題の是正も成功の絶対条件となります。
まとめ:日本の未来を支える「新しい財布」となるか
政府系ファンド(SWF)は、国の資産を専門家が運用して増やす仕組みであり、海外にはノルウェーやシンガポールなど多くの成功例があります。
この構想が、本当に日本の未来を支える「新しい財布」となれるかどうか。
その成否は、ひとえに「政治から独立した厳格なルール」と「国民への徹底した透明性」を確立できるかにかかっています。
日本の未来を左右する、この重要な挑戦の行方を、私たち国民もしっかりと見守っていく必要があります。
